イーライリリーは世界14位だが、糖尿病患者向けの治療薬では業界2位の製薬会社です。糖尿病患者は、19年に4.6億人に達し世界中で増え続けています。治療薬を開発するイーライリリーに投資すれば利益を得られるのでしょうか?
- 「糖尿病の治療薬開発を、独占する3社のうち1社である…」
- 「糖尿病患者は19年に4.6億人、45年に7億人になる…」
- 「営業利益率は25%もあるが、PER24倍は割安なのだろうか…」
糖尿病向け治療薬を独占する1社だが、イーライリリーは投資したい銘柄ではありません。
なぜならば、世界中で薬価引き下げ圧力があり、製薬会社の売上高は伸びていないからです。治療費が最も高い米国市場は飽和状態で、売上高はあまり伸びていません。また、成長が期待される中国市場では、政府の値下げに応じたことで成長率が低下しています。
20年3Qの決算書を見ると、値下げ圧力の影響が良く分かります。
中国市場の販売量は52%増えたが、薬価格が42%も減少しています。その結果、中国市場の前年比はわずか9%に止まります。世界的に糖尿病患者が増えるの間違いないが、今後も売上高の上昇には圧力が掛かり続けます。
PER24倍は割安に見えるが、将来の成長率を考慮すると割高にも見えます。
- イーライリリーの4半期決算(2020年7-9月)は?
- イーライリリーの過去10年間の売上高や営業利益は?
- 営業利益率24%の独占企業でも、投資すべきでない理由は?
記事の内容を簡単に知りたい
イーライリリーの10年間の四半期決算は?

イーライリリーの四半期決算を紹介します。
20年1Qの決算(2020年3月31)
- 売上高:58.5億ドル(+15%)
- Diabetes:27.7億ドル
- Immunology:5.4億ドル
- Neuroscience:4.2億ドル
- Oncology:12.6億ドル
- Other:4.8億ドル
- 営業利益:11.9億ドル(−21%)
- 純利益:14.5億ドル(−66%)
- 1株当たり利益:1.60ドル(−63%)
20年2Qの決算(2020年6月30日)
- 売上高:54.9億ドル(−2%)
- Diabetes:27.7億ドル
- Immunology:5.4億ドル
- Neuroscience:4.2億ドル
- Oncology:12.6億ドル
- Other:4.8億ドル
- 営業利益:11.9億ドル(−21%)
- 純利益:14.1億ドル(+6%)
- 1株当たり利益:1.55ドル(+8%)
20年3Qの決算(2020年9月30日)
- 売上高:57.4億ドル(+5%)
- Diabetes:27.8億ドル
- Immunology:6.2億ドル
- Neuroscience:4.7億ドル
- Oncology:13.3億ドル
- Other:5.2億ドル
- 営業利益:15.9億ドル(2.4倍)
- 純利益:12.0億ドル(−4%)
- 1株当たり利益:1.33ドル(−3%)
イーライリリーは1876年に米国で創業した製薬会社です。製薬会社の売上では世界14位だが、糖尿病患者向けの治療薬ではノボルノディスクに次ぐ業界2位の会社です。
20年3Qの売上高は前年比5%増で57.4億ドル、営業利益は2.4倍で15.9億ドルでした。糖尿病患者向けの治療薬が全体の48%を占めています。
20年1Qに売上高が15%増だったのは、コロナによる都市封鎖の影響です。
都市封鎖や外出規制で糖尿病患者が、インスリンを買いだめしたからです。2Qや3Qでは売上高は落ち着き、6〜8%の従来の成長率に戻しています。
20年4Qの決算(2020年12月)
2021年1月26日に公開予定。
では、イーライリリーの売上高や営業利益の10年間の推移はどうでしょうか
イーライリリーの10年間の損益計算書は?

72年に4ドルで、NYSEに上場しました。その後も、安定して株価は上昇を続け、20年6月のコロナ渦で最高値163ドルを付けています。20年11月は、142ドル前後で推移していますね。
では、イーライリリーの売上高や営業利益を見てみましょう。
その1:売上高と営業利益の10年間の推移は?

過去10年間の業績を見ると、売上高は横ばいだが安定している事が分かります。業界最大手のノボノディスクの営業利益率40%には負けるが、25%と安定していますね。糖尿病治療薬は大手3社が独占し、安定した収益を得ています。
その2:BPSとEPSの10年間の推移は?

過去10年間のBPS(1株あたり純資産)とEPS(1株あたり純利益)は、横ばいかもしくは減少しています。19年にBPSが落ち込んだのは、投資資産を売却したからです。売却益によって、EPSは増えていますね。
その3:営業CFと投資CFの10年間の推移は?

過去10年間の営業CFもフリーCF(営業CF−投資CF)も、横ばいが続いています。業界最大手のノボノルディスクと比較すると、投資CFは多いです。イーライリリーの方がより積極的に新薬を開発しているからだと思います。
では、私たち投資家はどのように投資判断すれば良いのでしょうか?
イーライリリーの投資で注目すべきポイントは?

イーライリリーに投資する上で注目すべきポイントを紹介します。イーライリリーはインスリンをメインで開発する会社です。そのため、世界で糖尿病患者が増えれば、イーライリリーの売上高も増えます。
注目1:世界の製薬会社ランキングで14位?
19年12月期決算の売上高ランキングです。
世界最大の製薬会社はスイスのロシュで618億ドル、3位は米国ファイザーで517億ドル、3位はデンマークのノボノルディスクで474億ドルと続きます。イーライリリーは世界で14位で、売上高は223億ドルです。
世界でインシュリンをメインで開発する製薬大手は3社だけです。インシュリン開発の最大手はノボノルディスク、売上高7位の仏サノフィ、それからイーライリリーです。
では、イーライリリーの市場シェアはどれくらいあるのでしょうか?
注目2:肥満ケアの市場シェアは20%まで上昇?
糖尿病を含む、肥満ケアセグメントの市場シェアです。
インスリン市場1位のノボノルディスクは、肥満ケアセグメントで27%のシェアを獲得しています。しかしながら、しかしながら、近年はイーライリリーのシェアが20%を超え、大きく伸びている事が分かります。
仏サノフィと米メルクは、イーライリリーにシェアを奪われています。では、糖尿病患者の人口は、世界的にどれくらい多いのでしょうか?
注目3:19年の世界の糖尿病患者は4.63億人?
世界中で糖尿病患者は増え続けています。
2019年の糖尿病患者は、世界で4.63億人もいます。19年前と比較して3倍も増加し、30年には5.78億人に増えます。11人に1人が糖尿病、65歳以上の5人に1人が糖尿病です。
世界で最も糖尿病患者が多いのは中国で1億1640万人です。次にインドの7700万人、米国で3100万人と続きます。糖尿病の医療費が多い国は、米国で32兆円、中国で11.8兆円、ブラジルで5.7兆円、ドイツで4.8兆円、日本で2.6兆円です。
地域別で見ると、途上国の方が増加率が多いことが分かります。アフリカの45年までの増加率は143%増、中東・北アフリカ地域は96%増、東南アジアは74%増です。

では、ノボノルディスクの地域別の売上高はどうでしょうか?
注目4:米国市場が売上高の55%を占める?

百万ドル | 売上高 | 前年比 | 割合 | 薬価格 |
---|---|---|---|---|
北米 | 3,161 | +3% | 55% | -4% |
ヨーロッパ | 1,047 | +13% | 18% | -1% |
日本 | 660 | +3% | 11% | -4% |
中国 | 289 | +9% | 5% | -42% |
その他 | 583 | -1% | 10% | -3% |
合計 | 5,741 | +5% | – | -5% |
イーライリリーの地域別の売上高です。
イーライリリーの売上高の55%は、北米市場が占めています。業界最大手のノボノルディスクと同様に、北米市場が最も大きいが伸び率は小さいですね。ついで、ヨーロッパの18%、日本の11%と続きます。
売上高成長率が高いのは、ヨーロッパと中国市場です。
中国市場は販売量が前年比で51%も増えています。しかしながら、薬価格を42%も引き下げた事で、成長率はわずか9%だけです。薬価格引き下げ圧力は、中国だけではなく世界中で見られる事です(参考:製薬大手が中国で新薬を大幅値下げ)。
中国で大幅に値下げした事で、他国からも圧力を掛けられる可能性が高いです。
注目5:製造パイプラインの新薬は22種類もある?
イーラリリーは低迷する製薬業界の中で健闘している会社です。
インシュリンなどの糖尿病向けの治療薬を、次々に市場に投入していますね。その結果、3番手や4番手からシェアを奪い、ノボノルディスクを追随しています。主力となる製品を見ると、順調に売上高が伸びていることが分かりますね。
また、イーラリリーは次々に新しい新薬を製造パイプラインに乗せています。イーライリリーの資料を見ると、順調に治験が進んでいる事が分かります。これらの新薬が承認されれば、売上高を伸ばす事ができますね。
投資家はイーライリリー株を購入するべきか?

- 営業利益率は25%と高いが、売上高は伸びていない
- 19年の売上高は前年比10%減、20年は微増に止まる
- 18年は投資資産売却で、BPSが落ち込みEPSは上昇する
- 新薬開発が多く、ノボノルディスクより投資CFが多い
- 米国が売上の55%を占めるが、伸び率は3%に止まる
- 中国で薬価格引き下げに応じ、平均価格は42%も下げた
- PERは24倍と割高でないが、将来の成長性は大きくない
イーライリリーは、インスリンで世界市場で2番手の製薬会社です。糖尿病患者は世界中で増加傾向にあり、19年には4.63億人、45年には7億人に増えると言います。糖尿病患者が増え続ける限りは、イーライリリーの売上高も上昇するはずですね。
しかしながら、個人的にはイーライリリーは投資したい銘柄ではありません。
なぜならば、世界中で薬価引き下げ圧力があり、製薬会社の売上高は伸びていないからです。中国市場は糖尿病患者が最も多く、売上高の伸び代が最も高い市場です。しかしながら、他の製薬会社も含め、中国国家医療保障局の引き下げに応じています。
そのため、20年3Qの薬価格は、平均して42%も下落しました。
中国市場の大幅な薬価格引下げで、他の国の圧力もますます強くなる事が予想できますね。この点を踏まえると、糖尿病患者が増えても、売上高を増やし続けるのは難しいと言えます。
まとめ:イーライリリー株の四半期決算は?

- 1876年に米国で設立、世界で14位の製薬会社である
- 糖尿病患者向け治療薬では、世界2位のシェアを持つ
- 米国市場でシェアを持ち、売上高全体の55%を占める
- 営業利益率は25%と高いが、売上高は伸びていない
- 中国で薬価格引き下げに応じ、平均価格は42%も下げた
- PERは24倍と割高でないが、将来の成長性は大きくない
糖尿病向け治療薬を独占する1社だが、イーライリリーは投資したい銘柄ではありません。
なぜならば、世界中で薬価引き下げ圧力があり、製薬会社の売上高は伸びていないからです。治療費が最も高い米国市場は飽和状態で、売上高はあまり伸びていません。また、成長が期待される中国市場では、政府の値下げに応じたことで成長率が低下しています。
20年3Qの決算書を見ると、値下げ圧力の影響が良く分かります。
中国市場の販売量は52%増えたが、薬価格が42%も減少しています。その結果、中国市場の前年比はわずか9%に止まります。世界的に糖尿病患者が増えるの間違いないが、今後も売上高の上昇には圧力が掛かり続けます。
PER24倍は割安に見えるが、将来の成長率を考慮すると割高にも見えます。
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